BtoBビジネスで、お客さんから入金がない場合、お客さんからそんな契約はしていないという主張をされることがあります。あるいは支払った代金を返せといわれることもあります。
そのような場合、請求サイドとしては一般的に契約書や申込書を示すことになりますが、お客さんからは従業員が勝手にやったことで社長の自分は知らないなどといった主張をされることがあります。
このような主張がなされる背景としては、単にお客さんがお金を払いたくないので難癖をつけているものから、お客さんの内部で経営権につき紛争が生じている場合等様々あります。
この記事では、契約の相手方から契約締結権限がない者が勝手に契約したと主張された場合の対応について、弁護士が解説をしています。
契約を締結できるのは原則代表取締役と支配人
会社が第三者と契約を締結する場合、その会社の代表取締役が会社を代表して契約を締結することになります。
従業員などが勝手に会社を代表して契約を締結することはできません。
会社法上の支配人は契約締結の代理権を有する
会社法上の制度で、支配人という役職があります。
支配人は、おかれた営業所において会社を代理して第三者と契約を締結することができます(会社法11条)。
支店長や支社長などにあたる人が支配人として選任される場合がありますが、支配人を選任する場合、会社は登記をしなければならず、実際には会社法上の支配人という役職はあまり使用されていません。
特定の施設のトップのことを支配人ということがありますが、この意味での支配人は必ずしも会社法上の支配人と同じではないので注意が必要です。
- 支配人はおかれた営業所において、その事業に関する契約を会社を代理して契約することができる
- 支配人という名称が付いていても必ずしも会社法の支配人とは一致しない
代理権を与えられれば従業員や取締役も契約締結可能
さきほど述べたとおり、対外的に契約を締結できるのは代表取締役と支配人が原則です。
もっとも、社長1人の会社ならともかく、すべての契約を代表取締役が決裁するというのは会社運営として現実的ではありません。
そのため、会社は、担当の従業員や取締役に一定の契約を締結する代理権を与えているのが通常です。
しかし、代理権の存在は第三者からは明確に分かるものではないので、契約を締結するときは相手方が契約締結権限を有する者であるかどうかを見極めるのが重要になってきます。
・代理権を与えられれば代表取締役や支配人でなくても契約を締結することができる
契約締結権限がないとの主張に対する対応
では、契約書があるにもかかわらず、相手方の代表取締役から契約締結権限がない者による契約だから無効だと言われた場合にはどのように対応することができるかを解説していきます。
代金を請求するための主張としては概ね次の4つが考えられます。
- 代表取締役が承認していたことを主張する
- 担当者が代理権を有することを主張する
- 表見代理を主張する
- 不法行為の使用者責任を主張する
1.代表取締役が承認していたことを主張する
相手方の代表取締役が承認していれば、契約締結権限がある者による契約になります。契約書に社印が押印されていたり、契約交渉の過程で代表取締役が登場していた場合は、まずはこれを主張することが多いです。
証拠としては次のようなものが考えられます。
- 社印が押印された契約書や申込書
- 代表取締役と契約のやり取りをした記録
2.担当者が代理権を有することを主張する
契約のやり取りの際に代表取締役の関与の形跡がない場合や、契約書や申込書の記名・押印・署名等が相手方の担当者になっている場合は、契約締結の相手方の担当者が代理権を有しているという主張をすることになります。
担当者が、当該契約の締結に関する代理権を会社から与えられていれば、当該担当者が会社のためにすることを示して締結した契約は相手方の会社との間で有効に成立します(民法99条1項)。
証拠としては次のようなものが考えられます。
- 相手方担当者による過去の取引実績
- 相手方担当者の証言
- 委任状
3.表見代理を主張する
担当者に代理権がなかったとしても、代理権を有するかのような外観を作ったことについて会社に帰責性があれば、表見代理が成立し、会社との間で有効に契約が成立します(民法109、110、112条)。
また、表見代理と似たような制度として、さきほど出てきました支配人であるかのような名称を担当者に付けていた場合は表見支配人として契約が有効に締結されたとみなされる場合や(会社法13条)、代表権を有するかのような名称を付けていた場合には表見代表取締役として、契約が有効に締結されたとみなされる場合があります(会社法354条)。
証拠としては次のようなものが考えられます。
- 肩書きが付された名刺、メールの署名、HP等
- 相手方担当者による過去の取引実績
4.不法行為の使用者責任を主張する
相手方の担当者が権限がないにもかかわらず、会社の代理人であるなどと詐称したり、代表取締役の承諾なく社印を契約書や申込書に押印したりして、それを知らない第三者と契約を締結して損害を与えた場合は、民法709条の不法行為が成立します。
そして、従業員や役員が事業の執行について、不法行為をした場合には、会社は使用者責任を負います(715条)。
したがって、このような場合は、使用者責任を根拠に代金相当額を損害賠償として請求することが考えられます。
代金回収までの対応
請求書を発行しても相手方が代金を支払ってくれない場合は、こちらから積極的に回収に向けて動かなければなりません。
この場合の順序としては、まずは内容証明郵便で催告をし、それでも支払ってこなければ民事訴訟を提起することになります。
内容証明郵便による催告
まずは書面で支払いを促すことが一般的です。
この催告は内容証明郵便で行うことが多いでしょう。
支払督促
支払督促は、簡易裁判所を利用する簡便な手続きです。
書類審査のみで完結し、仮執行宣言付が付されれば強制執行が可能になります。
ただし、契約締結権限について争いが生じている場合は、相手方から異議を出され通常訴訟に移行する可能性が高いです。
そのため、この場合は支払督促はあまり適した手続ではありません。
民事訴訟
代金回収の最終手段は通常の民事訴訟になります。
勝訴判決を得られれば強制執行が可能になり、相手方と裁判上の和解が成立した場合も和解調書をもとに強制執行が可能になります。