WEBサービスを始める際、ユーザーとの契約の内容となるのが利用規約です。利用規約はWEBサービスの提供会社が身を守るための重要なツールです。
そんな重要な利用規約ですが、競合他社の利用規約をコピペして使っているケースもわりとありがちです。
IT企業の方なら、サイバーエージェントが、競合サービスのバリュークリックの利用規約をコピペしたとして、クレームを受けたという話を聞いたことがあるかもしれません。このときは当時堀江貴文さんが代表を務めていたオン・ザ・エッヂがサイバーエージェントのサービスのWEBサイトの制作を請け負っており、担当者がコピペしてしまったようです。
コピペするとトラブルになることがありえる利用規約ですが、この記事では、利用規約について他社のものをコピペした場合の問題点について弁護士が解説しています。
利用規約に著作権は原則認められない
利用規約に著作権が認められる場合、それをコピペしてネット上に公開した場合は、著作権法上保護される複製権、自動公衆送信権、送信可能化権を侵害することになります。
著作権侵害が認められた場合は、民事上は、損害賠償請求、使用の差し止めの対象となり、刑事罰を受ける可能性もあります。
そのため、コピペの違法性を考えるにあたっては、利用規約に著作権が認められるかがポイントとなります。
利用規約は原則著作物とはいえない
著作権法上の著作物といえるためには、利用規約が「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」でなければなりません。
この点について、利用規約の個々の条項はありふれた定型的な表現とならざるを得ず、原則として著作物にはあたらないと考えられています。
利用規約の著作物性が認められた裁判例
他方で利用規約を全体として見た場合、作成者の個性があらわれているとして利用規約全体についての著作物性を認めた裁判例(東京地判平成26年7月30日)があります。
この裁判例では、時計修理サービスのWEBサイトの類似性をめぐって、損害賠償請求やWEBサイト上での利用規約の使用の差止め等を原告が請求しました。
まず、東京地裁は利用規約の著作物性について、個々の規約文言の著作物性を否定しました。
原告規約文言1ないし59のうち、被告規約文言1ないし59と共通する部分は、これらを個別にみる限り、別紙6に記載のとおり、他に適当な表現手段のない思想、感情若しくはアイデア、事実そのものであるか、あるいは、ありふれた表現にすぎないものというべきであって、直ちに創作的な表現と認めることは困難というべきである。したがって、被告規約文言1ないし59と、原告規約文言1ないし59とを個別に対比する限りにおいては、被告規約文言1ないし59はそれぞれ複製又は翻案に当たるものとはいえない。
次に規約全体の著作物性について次のように述べ、本件の利用規約全体について著作物性を認めました。
一般に、修理規約とは、修理受注者が、修理を受注するに際し、あらかじめ修理依頼者との間で取り決めておきたいと考える事項を「規約」、すなわち条文や箇条書きのような形式で文章化したものと考えられるところ、規約としての性質上、取り決める事項は、ある程度一般化、定型化されたものであって、これを表現しようとすれば、一般的な表現、定型的な表現になることが多いと解される。このため、その表現方法はおのずと限られたものとなるというべきであって、通常の規約であれば、ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多いと考えられる。
しかしながら、規約であることから、当然に著作物性がないと断ずることは相当ではなく、その規約の表現に全体として作成者の個性が表れているような特別な場合には、当該規約全体について、これを創作的な表現と認め、著作物として保護すべき場合もあり得るものと解するのが相当というべきである。
レピュテーションリスクも考慮すべき
利用規約のコピペが著作権法違反にならなかったとしても、世間的には他社の利用規約をそのままコピペすることは良いことだとは思われません。
当然、コピペされた方がコピペを発見した場合は、怒ることが予想されます。
結果的に著作権法上は違法にならないようなケースであったとしても、訴訟リスクは生じますし、怒った競合他社が公式サイトやSNSなどで利用規約が盗用されたなどとして公表すれば、自社の評判が落ちてしまいかねません。
そのため、利用規約のコピペは避けるべきです。
規約が自社のサービスと合っていないことも
他社のWEBサービスの利用規約は、他社のサービスに向けて作られたものです。
そのため、自社のWEBサービスには適しないこともあります。
全然取引の実態と異なる契約書のひな形を使ってしまった場合と同じ弊害があります。
この意味でも、他社の利用規約のコピペは避けるべきです。