この記事では、秘密保持契約書のチェックポイントについて弁護士が解説しています。
条項例やひな形は以下の記事を参考にしてください。
秘密保持契約とは
秘密保持契約は、一方当事者が、他方当事者に秘密情報を開示するにあたって、秘密情報を受領する側が秘密を守ることを約束する契約です。
業務提携やM&Aの検討や業務委託にあたって、営業や技術上の秘密を相手方に開示することが必要になったり、有益となることがあります。
秘密情報が出回ってしまうと会社の利益を損なうので、相手方に秘密を守ってもらうために秘密保持契約を締結することが重要になります。
秘密保持契約は、相手方に漏らしてほしくない秘密を守らせるための契約
秘密保持契約書で規定される条項一覧
秘密保持契約書では主に以下の条項が定められます。太字のものがほぼほぼ必須で規定されている条項です。
条項名 | 条項の内容 | 重要度 |
前文、目的 | 前文は、条項そのものではないですが、ここに契約の当事者や秘密保持契約締結の目的を記載します。目的自体を一つの条項として定めることもあります。 | ◎ |
秘密情報 | 秘密情報を定義する規定です。何が秘密情報にあたるかを定める規定です。 | ◎ |
秘密保持 | 秘密保持義務を定める規定です。また、例外的に開示できる場合を定めます。 | ◎ |
目的外使用の禁止 | 秘密情報の目的外使用の禁止義務について定める規定です。 | ◎ |
複製 | 秘密情報の複製の可否や複製物についての取扱いを定める規定です。 | 〇 |
返還または破棄 | 秘密情報の返還や破棄について定める規定です。 | 〇 |
権利義務の譲渡等の禁止 | 権利義務の譲渡等について定める規定です。 | 〇 |
損害賠償 | 損害賠償について定める規定です。 | ◎ |
有効期間 | 秘密保持契約の有効期間について定める規定です。 | ◎ |
(専属的)合意管轄 | 裁判になったときに利用する裁判所を定める規定です。 | 〇 |
協議 | 契約の適用や解釈に疑問が生じた際にまずは協議で解決することを定める規定です。 | △ |
管理体制 | 秘密情報の管理体制について定める規定です。相手方に一定の管理体制を義務付けたり、調査権を定めたい場合に定めることがあります。 | 〇 |
知的財産権 | 発生した知的財産権の帰属について定める規定です。秘密情報をやり取りする中で知的財産権が発生することがありえる場合に定めます。 | 〇 |
抵触 | ほかの秘密保持義務を定める契約との優先関係を定める規定です。 | 〇 |
差止め | 差止めに関する規定です。確認的に定めることがあります。 | △ |
準拠法 | どこの国の法律に基づいて契約を適用するかを定める規定です。海外の相手と締結する場合に定めます。 | △ |
反社会的勢力の排除 | 暴力団等の反社会的勢力が関与しないようにするための規定です。コンプライアンス上、基本的にはこの条項を入れることになります。 | 〇 |
秘密保持契約書のチェックポイント
以下、各条項毎にチェックポイントを解説します。
主に秘密情報を開示する側になるのか、受領する側になるのかで視点は変わってくるので、各当事者ごとにチェックポイントをまとめています。
前文、目的条項
秘密保持契約では、秘密情報を開示する目的以外の目的で相手方に使用させないようにすることが重要になります。
そのため、秘密保持契約では、前文や目的条項で、秘密情報を開示する目的を定めます。
チェックポイント
秘密情報の開示側 | 秘密情報の受領側 |
目的の範囲が広すぎないか | 目的の範囲が狭すぎないか |
秘密情報の定義条項
秘密保持契約では、何が秘密情報にあたって、何があたらないのかを定めることが重要になります。
秘密情報の開示側としては、なるべく開示する情報は広く秘密情報として扱われるのが望ましく、逆に受領側としては、なるべく秘密情報の範囲を厳格に規定して想定外の情報にまで秘密保持義務を負わないようにする必要があります。
チェックポイント
秘密情報の開示側 | 秘密情報の受領側 |
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秘密保持義務とその例外を定める条項
秘密保持契約における受領側の重要な債務は秘密を守ることです。
もっとも、自己の役員や従業員、グループ会社、弁護士等には開示が必要になることがありますし、裁判所や役所等から法令に基づいて開示要求があった場合は従う必要があります。
そのため、秘密保持義務の例外を定めておく必要があります。
当事者が上場企業の場合は、証券取引所の規則に基づく開示が必要になることもありますので、その点も定めておくことが必要です。
開示側としては、例外規定により開示がなされた場合でも、漏えい防止のために同様の秘密保持義務を開示先に負わせる義務を受領側に課すことが重要になります。
チェックポイント
秘密情報の開示側 | 秘密情報の受領側 |
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目的外使用の禁止の条項
秘密情報は、第三者への開示や漏えいのほか、受領側に目的外で使用されないようにする必要があります。
そのため、開示側としては目的外使用の禁止について契約書に定める必要があります。
チェックポイント
秘密情報の開示側 | 秘密情報の受領側 |
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複製に関する条項
受領側による秘密情報の複製(紙などの物理的なコピーや電子データでのコピー)は、特別に定めがない限りは、基本的に可能です。
扱う秘密情報の重要性の程度によっては、開示側は秘密情報の複製自体を禁止することも検討します。
また、複製を認める場合は、複製された秘密情報の取扱いについても定める必要があります。
チェックポイント
秘密情報の開示側 | 秘密情報の受領側 |
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返還または破棄に関する条項
秘密保持契約が終了する場合や秘密情報の取扱いが必要なくなった場合には、秘密保持情報が記載された物の返還や破棄を定めておく必要があります。
開示側としては、受領側に返還・破棄証明書などの発行義務を負わせ、破棄や返還が完了したことや複製がないことについて担保しておくことを検討すべきです。
受領側としては、返還が困難なものについては破棄などの方法により処理できる選択肢を用意しておくべきです。
チェックポイント
秘密情報の開示側 | 秘密情報の受領側 |
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損害賠償条項
相手方に秘密保持義務の違反があり、損害が発生した場合は、損害を被った当事者は相手方に損害の賠償を求めることができます。
損害を被るのは基本的には開示側ですので、開示側としては損害賠償できる範囲を広くとっておくべきです。
また、損害の立証の負担を軽くするために、損害賠償の予定や違約金について定めることも検討されます。
損害賠償の予定や違約金を定めた場合は、その額に賠償額が限定されたものでないことを立証しなければ、実際に発生した損害がその額を超えていても超過分は請求できないと考えられています。
そのため、契約書の条項では、実際に発生した損害が予定額や違約金の額を超える場合は、超過分も請求できるよう規定しておく必要があります。
受領側としては、取引によって得られる利益等と比較して、万が一の場合の損害が過大になることが予想される場合は、損害賠償の上限額を定めることを検討します。
チェックポイント
秘密情報の開示側 | 秘密情報の受領側 |
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有効期間に関する条項
契約書では、秘密保持契約が有効な期間について定めます。
期間としては秘密情報の利用価値がなくなる程度の期間を定めますが、有期としたうえで、自動更新条項を付けるものも多くみられます。
チェックポイント
秘密情報の開示側 | 秘密情報の受領側 |
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その他の条項
上記のほかとしては、専属的合意管轄、知的財産権、管理体制等の条項について不利な条項となっていないか、反社会的勢力の排除など必要な条項が含まれているか、一方的な義務が設定されていないか等をチェックします。
個人情報に関する取扱いについて
ときおり秘密保持契約書において、個人情報に関する定めも併せて規定されているものもみかけます。
しかしながら、秘密情報と個人情報は重なることがありえても、個人情報は個人情報保護法の規制が別途及ぶので、基本的には別物です。
相手方に個人情報の取扱いを委託するような場合は、別途個人情報の取扱いに関する契約書を締結すべきです。
個人情報については別途個人情報の取扱いに関する契約書を作成する
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