一般条項

契約書の損害賠償条項の定め方

契約書の損害賠償条項

この記事では、契約書の損害賠償請求の条項について弁護士が解説しています。

民法の基本原則

契約書に損害賠償条項がなくても、債務不履行や契約不適合がある場合には、損害を被った側から相手方に損害賠償請求をすることができるのが民法の原則です。

債務不履行に基づく損害賠償請求

契約の相手方に債務不履行があり、債務不履行によって損害が生じた場合は、相手方に損害賠償請求をすることができます。

債務不履行について相手方に帰責性がない場合は相手方は賠償責任を負いません(415条1項ただし書き)。

通常損害と特別損害

債務不履行に基づく損害賠償請求で認められる損害には通常損害と特別損害というものがあります。

通常損害は、文字どおり債務不履行があった場合に通常発生するような損害です(民法416条1項)。

特別損害は、損害を被った側に特別な事情があり、それにより発生した損害です(民法416条2項)。

例えば、売買契約の目的物を、買主が第三者に通常より高値で転売することが予定されていた場合などの売却益が特別損害にあたります。

特別損害の賠償請求が認められるには、債務不履行をした者が債務不履行時に特別事情を予見すべきであったことが必要です。

  • 損害賠償の範囲には通常損害と特別損害の2種類がある
  • 特別損害は、損害を発生させる特別の事情を債務者が債務不履行時に予見すべきであった場合に賠償請求が認められる

契約不適合責任に基づく損害賠償請求

売買契約や請負契約では、引き渡した目的物が契約の内容に適合しない場合には、契約不適合責任が生じます。

  • 売買契約や請負契約では契約不適合責任に基づく損害賠償も問題となる

損害賠償の予定

あらかじめ契約により損害賠償の予定をしておけば、債権者は債務不履行の事実さえ立証すれば、損害を立証しないで予定された賠償額を請求することができます(民法420条1項)。

実際に発生するであろう損害額より多いことはかまいませんが、実際の損害の範囲より賠償額があまりにも過大になる場合は、公序良俗に反して合意の無効や減額が認められることがあります(民法90条)。

  • 損害賠償額をあらかじめ合意しておくことも可能
  • 実際の損害に比べ過剰すぎる賠償額は合意の無効や減額が認められることがある

損害賠償条項を定める際のポイント

契約書に損害賠償条項を定める目的は、基本的に損害賠償の要件や範囲を法律どおりのものから制限するか、拡大するというものです。

また、損害賠償の要件や範囲を法律どおりとする場合でも、損害賠償の相手方に損害賠償義務を認識させるために、シンプルな条項を入れることもあります。

損害賠償請求を定める目的
  1. 損害賠償の範囲を制限する
  2. 損害賠償の範囲を拡大する
  3. 損害賠償義務を当事者に認識させる

損害賠償の範囲を制限する場合

債務不履行による影響が予測しきれない場合などに損害賠償の範囲を制限する規定を契約書に入れることがあります。

賠償範囲を制限する条項は、損害が拡大しやすいIT関連や個人情報を取り扱う契約書などによくみられます。

賠償範囲を制限する条項例

本契約に違反し、相手方に損害を負わせた当事者は、第〇条が定める代金を上限として、当該違反に起因して発生した損害を賠償しなければならない。ただし、当該違反が故意または重過失による場合は、損害賠償の上限は適用されない。

故意・重過失がある場合には責任制限条項は機能しない

損害賠償の範囲を制限する条項を契約書に設けていても、賠償責任者に故意・重過失がある場合は、当該条項は適用されないか無効となるのが支配的な見解です。

全く譲歩されていない契約交渉

損害賠償の範囲を制限する条項がドラフトで提示された場合、契約上代金を支払う側(業務を委託する側)は、当該条項の修正、削除を求めることが多いです。制限がないのが民法どおりですから、修正や削除を求めるのは当然といえます。

この際にしばしばみられる契約交渉として、相手方から「故意または重過失による場合は、損害賠償の上限は適用されない。」旨のただし書きを設けるとの対案が示されることがあります。

一見、折衷案のような譲歩があるようにみえますが、このようなただし書きを定めなくても、故意・重過失がある場合には、損害賠償の上限規定は適用されないのが裁判例ですので、実際には何も譲歩されていません。

譲歩されていないことを認識した上で、損害賠償の範囲の制限規定を受け入れる場合はかまいませんが、何か譲歩を引き出したということはないので注意が必要です。

損害賠償の範囲を拡大する

損害賠償の範囲を拡大する方法としては、上記の損害賠償の予定を利用することが考えられます。

それ以外では、特に何もさだめなくても相当因果関係が認められる損害は賠償請求が可能ですので、損害の範囲を拡大するために契約書でやれることはあまりありません。

弁護士費用の損害については、債務不履行に基づく損害賠償請求権では認められないので、合理的な弁護士費用の損害については賠償の範囲に含めるという条項の修正を行うことがあります。

弁護士費用を賠償範囲に含める条項例

本契約に違反し、相手方に損害を負わせた当事者は、当該違反に起因して発生した損害(合理的な弁護士費用を含む。)を賠償しなければならない。

細かな文言のやり取りはあまり意味がない

損害賠償条項の契約交渉で、しばしば条項の「起因し」を「起因または関連し」にしたり、「直接被った損害」を「直接または間接に被った損害」にしたり等、細かな文言のやり取りがなされる場合があります。

しかしながら、上記の文言は民法上の概念にあるものではなく、結局は相当因果関係が認められるかということで損害賠償の範囲は決まります。

したがって、あまり細かな文言にこだわって条項修正の契約交渉をするのは実益がありません。

シンプルな損害賠償条項例

民法どおりで特に民法の修正意図がない損害賠償条項の例は以下のとおりです。相手方に損害賠償義務を認識させる意図で使用することが多いです。

シンプルな損害賠償条項

本契約に違反した当事者は、当該違反に起因して相手方に生じた損害を賠償しなければならない。

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藤澤昌隆
藤澤昌隆
弁護士・中小企業診断士(リーダーズ法律事務所代表、愛知県弁護士会所属) 基本情報技術者

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