IT、WEBサービスに関する契約書

ホームページ制作契約でトラブルになりやすいポイントと契約書上の対応

ホームページ制作契約でトラブルになりやすいポイントと契約書上の対応

この記事では、ホームページ(ウェブサイト)制作契約でトラブルになりやすいポイントと、契約書作成における対応について、制作会社側の視点で弁護士が解説をしています。

ホームページ制作契約でトラブルになりやすいポイント

ホームページ制作契約がトラブルになりやすい理由

ホームページ制作契約は比較的トラブルが発生しやすい契約類型です。

その理由は、以下の要素によるものと考えられます。

トラブルが発生しやすい理由
  • 契約書を作成していない
  • 制作にあたって顧客の協力が不可欠
  • 制作途中で仕様変更が発生しやすい
  • 顧客のウェブに関する知識が乏しい
  • 顧客のホームページによる売上向上に対する期待が大きい
  • 納期の見通しが難しい
  • 業界によって広告に関する規制が異なる

以下、トラブルが発生しやすい理由と制作業者の対応について解説します。

契約書を作成していない

ホームページの制作は数多くの業者がサービスを提供しており、小規模事業者や個人事業主も数多くいます。

中には契約書を作成しておらず、サイト構成や代金なども曖昧なまま制作が進行しているケースも見受けられます。

そのため、契約書がないことによって、トラブルが発生することがあります。

対応としては、まずは契約書を作成することが考えられます。

制作業者の対応

制作業者側で契約書を作成する

制作にあたって顧客の協力が不可欠

多くのホームページ制作では、ホームページを構成するテキストや画像等の資料は基本的に顧客が提供します。

ホームページ制作は注文住宅の設計のようなもので、制作業者と顧客の共同作業の性質を有しています。

しかしながら、顧客側にホームページ制作に割く人員が不足しており、また共同作業という意識も低いこともあり、ホームページ制作の進行が進まないことでトラブルが発生するおそれがあります。

対応としては、契約締結にあたって、顧客にホームページの制作は共同作業ということを十分に説明して理解してもらう必要があります。

また、契約書に顧客の協力義務や作業分担、顧客がそれらを怠った場合の処理を明記しておくことが考えられます。

制作業者の対応
  • ホームページ制作は共同作業ということを顧客に十分説明する
  • 契約書に顧客の協力義務や作業分担、顧客がそれらを怠った場合の処理を明記しておく

制作途中で仕様変更が発生しやすい

ホームページ制作では、制作期間中に顧客の事情変更や要望の変更などにより、仕様変更が生じやすいという特徴があります。

そのため、仕様変更のための費用負担などを巡ってトラブルが発生するおそれがあります。

対応としては、契約書で仕様や業務範囲を明確にし、仕様変更等によって作業内容が増加する場合は追加料金がかかることを明記しておくことが考えられます。

制作業者の対応
  • 契約書で仕様や業務範囲を明確にする
  • 契約書に仕様変更等によって作業内容が増加する場合は追加料金がかかることを明記しておく

顧客のウェブに関する知識が乏しい

顧客はウェブに関する知識が乏しいことが多いので、ホームページに関する要望が抽象的になりがちです。

抽象的な要望のままホームページ制作を進めると、顧客の期待と成果物との落差が生じやすく、トラブルが発生するおそれがあります。

また、専門業者である制作業者とウェブの素人である顧客との情報格差から、制作業者の説明義務が問題となることがあります。

対応としては、営業時に広告効果やPV、SEO等について断定的な言動をもちいないことが重要になります。

また、契約書上に広告効果やPV、SEOの保証をするものではないことを明記しておくことが考えられます。

制作業者の対応
  • 営業時に広告効果やPV、SEO等について断定的な言動をもちいないよう注意する
  • 契約書上に広告効果やPV、SEOの保証をするものではないことを明記しておく

顧客のホームページによる売上向上に対する期待が大きい

制作業者は、売上向上を宣伝文句としてホームページ制作を勧誘していることが多いです。

もちろんそれ自体は悪いことではありませんが、顧客はホームページによる売上向上に対し、過剰な期待を持っていることもあります。

そのため、売上向上の成果が出なかった場合や、ホームページの納期が遅れた場合などに、顧客が得られなかった売上の損害賠償請求が問題とされることがあります。

対応としては、契約書に損害賠償額の上限を定めたり、広告効果やPV、SEOの保証をするものではないことを明記しておくことが考えられます。

制作業者の対応
  • 契約書に損害賠償額の上限を定める
  • 契約書に広告効果やPV、SEOの保証をするものではないことを明記しておく

納期の見通しが難しい

ホームページの制作は顧客との共同作業であり、制作業者単独でできるものではないので、納期の見通しが難しいです。

また、外注先の納期が遅れるといった事態が発生することがあります。

そのため、当初の予定の納期からの遅れが発生しやすく、それがトラブルにつながるおそれがあります。

対応としては、契約書に納期が遅れる場合の処理について明記しておくことが考えられます。

制作業者の対応

契約書に納期が遅れる場合の処理について明記しておく

業界によって広告に関する規制が異なる

ホームページは広告ですので、景品表示法等の一般的な広告規制がかかります。

また、例えば医療広告であれば医療広告ガイドラインによる規制がある等、顧客の業界ごとに規制が異なります。

制作業者や顧客は必ずしも広告に関する法規制に精通しているわけではないので、完成したホームページの内容が違法なものになっていてトラブルに発展するケースがあります。

対応としては、契約書に、顧客が提供したテキストや顧客の指示によって作成した表示などについて、内容の適法性を保証しない旨を明記しておくことが考えられます。

制作業者の対応

契約書に、顧客が提供したテキストや顧客の指示によって作成した表示などについて、内容の適法性を保証しない旨を明記しておく

ホームページ制作契約での実際のトラブル事例

ホームページ制作契約で、実際にトラブルになった裁判例を紹介します。

顧客によるホームページ制作途中の解除による未払報酬請求権が問題となった事例

東京地判平成28年11月8日

リニューアルサイトの制作業務を請け負っていた制作業者が、顧客からクオリティが低いなどとして制作契約を中途解除された事例。

制作業者は顧客に対し以下の法律構成でそれぞれ請求をした。

  1. 民法641条に基づき、出来高部分の報酬相当額と未履行部分の利益相当額を請求
  2. 民法536条2項に基づき、出来高部分の報酬相当額と未履行部分の利益相当額を請求
  3. 請負契約に基づき、出来高部分の報酬相当額を請求

裁判所は、制作業者に債務不履行がないにもかかわらず顧客が債務不履行による解除をしたことが、民法536条2項の債権者の責めに帰すべき事由にあたるとして、民法536条2項に基づき制作業者からの出来高部分の報酬相当額と未履行部分の利益相当額を請求を認容した。1と3の請求は棄却。

【ワンポイント解説】

民法536条2項は、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」と定めており、債権者(ここでいう顧客)に問題があって、債務者(ここでいう制作業者)が債務を履行することができなくなった場合(リニューアルサイトを完成させることができなくなった場合)には、債権者(顧客)は代金を支払う義務がある旨さだめています。この事例では、顧客側が、正当な理由なくリニューアルサイトの制作契約を解除して、別業者によってリニューアルサイトを完成させていたため、顧客の責めに帰すべき事由により制作業者によってリニューアルサイトを完成させることができなくなったため、民法536条2項により制作業者の請求が認められました。

ホームページの不具合が問題となった事例

東京地判平成29年4月28日

ホームページの制作業務とECサイトの制作業務を委託したアパレル業者が、ホームページの不具合やECサイトが納品されなかったことから契約を解除する旨主張し、代金の返還請求及び債務不履行に基づく売上減少の損害賠償請求、説明義務違反によるサーバー使用料の負担について損害賠償請求をした事例。裁判所は、ホームページに関するアパレル業者の要望が抽象的であり、ホームページ制作業者の側でいかなる業務を分担すべきであったかについて明確になっているとはいえないとしてホームページ制作業務の債務不履行を否定。ECサイト制作業務は履行されていないとして、トータルの代金の半額の請求を認め、その余は棄却した。

説明義務違反が問題となった事例

東京高判平成29年11月29日

ネットショップサイト制作に関する契約において、ウェブサイト制作業者が「初心者でも簡単にネットショップはできます。」「店舗を持っていなくても成功します。」「月商10万円位ならすぐに稼げるようになります。」「月額利用料程度の売上げは年内には達成できますよ。」というセールストークを連発し、契約を勧誘した行為が説明義務に違反し不法行為にあたるとして支払済みの費用等の損害賠償を認めた事例

ホームページの制作契約書で定めておくべき条項

ホームページの制作契約書で定めておくべき条項は概ね以下のとおりです。

  • 定義条項(専門用語を使う場合)
  • ホームページの仕様、制作業者の業務範囲に関する条項
  • 顧客の協力義務、作業分担に関する条項
  • 制作代金、支払方法に関する条項
  • 納期に関する条項
  • 納品、検収に関する条項
  • 契約不適合責任に関する条項
  • 再委託に関する条項
  • 所有権、知的財産権に関する条項
  • 秘密保持に関する条項
  • 中途解約、解除に関する条項
  • 損害賠償に関する条項
  • 免責、非保証に関する条項
  • 合意管轄に関する条項
  • 反社会的勢力の排除に関する条項

ホームページ制作契約書の作成はウェブに詳しい弁護士に依頼

ホームページ制作契約書の作成にあたっては、ホームページ制作の流れ、ホームページの技術的な仕組み、トラブルが発生しやすいポイント、制作後の保守の流れなどを熟知した者が担当することが望ましいです。

何度も使うことになるようなホームページ制作契約書のひな形については、ウェブと契約書に詳しい弁護士に作成を依頼するのがおすすめです。

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藤澤昌隆
藤澤昌隆
弁護士・中小企業診断士(リーダーズ法律事務所代表、愛知県弁護士会所属) 基本情報技術者

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